タコの卵

どこまで我慢するのが身近な恐怖なのか

俺より面白い人なんていないと思ってた

俺より面白い人なんていないと思ってた

小学生の頃からクラスで人気者だった。お調子者で笑いを量産するムードメーカーだった。
クラスメイトから将来の夢はお笑い芸人だね!なんて言われて悪い気はしなかった。実際、俺より面白い人っているの?って思ってるレベルで調子に乗っていた。
小学校で面白い人ってのは人気者だ。人気も手伝って学芸会の主役にもなった。修学旅行で一人演劇なんかやって人気を絶頂のものにした。毎日が楽しかった。だってみんなが笑えば俺も嬉しい。面白いは正義なのだ。

 

 


そんな面白い人気者も中学生になる。

 

中学生でも俺より面白い人なんていないでしょ

 

文字通り、いなかった。中学生になって初対面の人にも俺が広まった。授業中でも笑いをとる。休み時間も面白い。会う人会う人に「てっちゃぎって面白いね!」有頂天になるのも時間の問題だった。もちろん面白い人も他にもいたが、僕よりは面白くなかったのでセーフだったりした。今思えば、俺より面白い人は何人かいたが、自然と避けてたんだろうな。会って面白レベルが下だと怖いから。

 

滲み出る面白さで先輩にも可愛がられた。先輩からも面白い後輩がいるな!って事で仲良くしてくれた。あまりにも面白すぎるってんで生徒会副会長にまでなってしまった。面白すぎる副会長だ。成績は全く良くない。生徒会のみんな頭良いが俺だけアホ。だけど面白い。
面白いだけで、他のクラスの給食とかを勝手に食べたりしても許された。むしろ面白がられた。面白いから面白い生活が送れた。毎日が楽しかった。

 

面白い=楽しい

 

世界はこの法則で回ってると信じていた。そして俺は左側の面白い人だと。だって15年ぐらい生きてて俺より面白い人にあった事ないんだもん。当時は真剣にお笑い芸人より面白いと思ってた。結構真剣に思ってたりしたのだ。だって自分でも自分が面白かったから。

 

そんな無敵のおもしろ中学生も高校生になった。

高校でも、もちろん面白い俺をアピールするのを忘れなかった。忘れなかったのだ。

実際には大いにコケた。

あれ????
あんまりウケなかったぞ??
そんな事もある。めげずに面白いアピールするが…全然ウケない。むしろ寒い空気すら流れる。
おかしい、こんなはずじゃ
軽く目眩がしたが、最初なのでみんな緊張してるのだろう。仲良くなったらこれまで通り面白い人で通じるはずだ。

 

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高校生になって一ヶ月もたったのに友達すらできなかった

何かがおかしい。中学の時は全員友達状態の俺に何があった?本当に困惑した。面白い人ってより、何か意味わからん事を言ってドヤ顔してるクラスの変な人になってるじゃあないか。
これじゃダメだ。高校生活が楽しくなくなってしまう。

面白くない=楽しくない

何がおかしいか観察しろ!
この日から僕はクラスの人気者を観察する事にした。

クラスの人気者は見た目が派手だった。ピアスを空けて髪を染めている。そして腰パンだ。対する僕の見た目は黒髪で坊ちゃん刈り。ズボンはピッチリ上げてピアス何てオシャレなものは一切身につけてない。
そして何か面白い事を言ってるのか注意深く聞いてみても…全然面白くない。まだ小学生の妹の方が面白い事を言うぞ。しかし、みんなはゲラゲラ笑っている。全然意味がわからん。なぜだ???高校生になるとギャグセンスが一斉に下がってしまうのか???

あっ!!!

僕はある共通点に気がついた。

クラスで人気がある人達→派手で今風

クラスで人気がない人達→地味でオタク風

見た目で綺麗に分けられている事に。
俺はもちろん下の、地味でオタク風だ。

高校生活は見た目が命なのだ。

 

これまで小学、中学と面白いアスリートを歩んできたが見た目は全然問題じゃなかった。どんな見た目でも中身が重要だった。しかし高校生ともなると見た目の重要度が段違いに上がる。少し大人になったからなのか、個性的な見た目が重要になってくる。個性的な面白い人より、個性的な見た目が重要だ。
なるほどな…だから俺は何言っても気持ち悪い人扱いされてるのか。

 

目の前がクラクラする。今更見た目を変えると逆に変な人扱いされるって言うか、小さいプライドが許せない。そんなプライドあるわけない。オタク風の見た目の奴が、いきなり今風の格好になるってのが単純に恥ずかしいからだ。

恥ずかしいって感情が始めて芽生えたのかもしれない。

これまでは何やってもウケてたので、恥ずかしさより笑いの快感が勝っていた。しかし、もう違う。恥ずかしさを知ってしまうと卑屈になってしまう。

「どうせ俺の面白さがわからん奴らなんかどうでもいいよ」
「馬鹿みたいな見た目しやがって。くだらんなぁーこいつら」

心の中で一人ブツブツ呟く。完全にあれだ。
面白くない人になってしまった。いいんだ。俺は本当は面白いから。こいつらは偽物。俺は本物。相当ヤバイやつだと思う。そして実際には面白い人もいたと思うが、俺は完全に見た目のせいにしてた。俺も今風の見た目なら今頃…。実際にはわかってるんだけどね。

 

心のなかで微かな支えがあった。最後の柱と言うべきか。学校が終わると同じ中学のみんなで集まってワイワイ遊んだりしてたのだ。もちろん勝手したる面子なので気が楽だ。その中では当然のように俺は「面白い人」にメタモルフォーゼしていた。ついさっきまではクラスでブツブツ言ってる暗いオタク臭い奴がだ。この変わり様には自分でも驚く。しかも、今通ってる高校生活では暗いキャラってのを自虐でみんなに話すとウケた。
なんだよ…やっぱり俺は面白いじゃん。何を話してもネタにできる。そのネタを面白おかしくイジれる。本質的にはやっぱり面白いと自分で納得する。

でも、次の日になると暗雲とした気持ちで高校に通う。
友達もいないしやることもない。こんなの初めてだ。学校が終わった後の同じ中学の集いだけが楽しみだった。それが無ければ…想像するだけで怖い。

 

そんな面白く無い高校生活だが、クラス違いで同じ中学の友達にお昼ご飯誘われた。みんなで囲んで弁当を食おうって事だ。すっかり卑屈さが身についた僕は

お、俺なんかとご飯食べていいの?周りの人に言われない?

どこまで自分が高校生活の最下層な人間かわかっていた。中学の友人は見た目が派手になり結構な人気者になっている。卑屈なので「俺みたいなキモオタと一緒になると迷惑になるんじゃ」今考えると何処まで腐ってるんだ俺は。って考えを当たり前のように持っていた。

とりあえず、良いらしいので一緒にご飯を食べる事に。もちろん、知らない人もいるので恐る恐る弁当を食べる。味なんか全くしない。ドキドキだ。イジメられてはいないが、いつイジメられてもおかしくないポジションにいるのだ。怖い。何が目的なんだろう?話の流れを聞くと、どうやら僕に友達を紹介したいらしい。えー!!!友達ってあんた…俺なんかと友達になりたい奴がいるのか?思いながら話を聞くと、その男は登場した。

 

「おまたせ~!売店混んでてさ~!」

 

今風の見た目で顔もカッコイイ人が来た。
どうやらこの人が紹介する友達らしい。無理でしょ。完全にイケイケな人じゃん。俺完全にオタオタな人なんだけど。弁当を半分ぐらい残ってる状態で友達になれなさそうと思った。

今風のイケメンが場を盛り上げるように話す。

お、おもしろい。まって…おもしろい。
今風の見た目の人気者はみんな面白い話はしない。くだらない話だけど面白そうオーラを出している。しかりこの男は違う。完全に面白い。面白い話を矢継ぎ早に話す。しかもどれもこれも濃厚でジューシーな内容。わははははは。久しぶりに高校内で笑った。ん??

まて。

まって。

この男。

ひょっとすると俺より面白いんじゃないか?
そんなはずは。冷や汗が流れる。しかし俺は面白男の話に笑わずにはいられない。
違う!!俺はいつだって笑わせる側だ!

 

変なプライドが邪魔して。面白い男より面白い話をしてやろうと火がついた。よせばいいのに突っ込んだり、相槌で面白さをとったりした。そして温めていた始めて話す人用の面白い話をした。周りは当然のように大笑い。初対面の面白い男も笑っていた。自然に俺も笑った。

お互い息があったのか友達になった。相手は人の見た目にこだわらないナイスガイだし、なにより話が面白い。俺より面白いのかもしれない。だって見た目が今風で俺と同じぐらいの面白さって…なりたかった理想の俺じゃん。認めたくないが上位互換だろう。悔しすぎる。悔しすぎる…が面白いので良しとしよう。だって面白いと楽しいから。


同じクラスではないので、いつもの様に俺は一人ぼっちだった。昼休みが楽しみだった。面白いナイスガイと楽しく弁当を食べるのは何よりもごちそうだった。面白すぎるので同じ中学生の集まりにも呼んだりした。そしたらウケまくり。あっという間に人気者に。嫉妬がなかったと言えば嘘になるが、それを吹き飛ばす明るさと面白さがあった。純粋に嬉しかったのだ。

奇跡的にも高校3年生で同じクラスになった。最後の高校生活は楽しかった。彼と面白い話をしながら学校生活が送れるのは最高だった。

 

高校も卒業する。彼は東京に行った。寂しかったが永遠に会えないわけじゃない。
僕は地元に残り、大学に進学した。もうわかってる、大学では下手に人気者とか目指さないことにした。地元の友達と遊んでればいい。それでも地元の友達から友達へとつながって、友達の数は多くなっていった。僕が得意な「ジュラシックパークの頭の良い恐竜がドアを開けるシーン」のマネを知らない人の飲み会でやれば超絶にウケた。大笑い必死のネタだ。

 

複雑な事情で僕は遠くに引っ越した。引っ越した先でも心機一転の気持ちで面白キャラは続けた。続けたって言うよりは何言っても面白いからだ。自慢ではない。当然のように思ってた。あの暗かった高校生活はなんだったのだ?ってぐらいはじけていた。何故なら見た目が今風の若者になっていたからだ。なので恐れを知らずガンガンいった。あの黄金の日々。中学生の時のテンションを取り戻していた。そこでも歳上だが僕より面白い人に出会った。世界は広い。出会ったがそこまで親しくなる前に僕は地元に帰った。これからこの人とはとっても仲良くなるんだけどね。

 

地元に帰っても面白いキャラだった。そんな中衝撃の出会い。友人の飲み会に呼ばれたんだが、その席に奴はいた。

全く異質のタイプの面白い男に出会った。

俺と高校のナイスガイは話と身振り手振りやモノマネ何かで笑いを取るタイプだが、その男は完全に「話術」だけで笑いをとっていた。面白すぎる。世の中にはこんな奴がまだいたのか!?

当然のように話術に引き込まれて笑う。負けてられないと得意の「不思議の国のアリスの赤ちゃん牡蠣」のモノマネで対抗する。お互いの持ちネタがシンクロして非常に楽しい飲み会になった。話術の彼とすっかり打ち解け友達になった。

お互いよく遊ぶようになったが、向かう所敵なしの面白いコンビになった。
そんな彼も東京に行った。

 

 

俺は地元でのんびり暮らしていた。これ以上「俺より面白い人に」会うことはないだろう。だって俺より面白い人が3人もいたのだ。実際にこれ以上いるとなると怖い。実際にはいっぱいいるんだろうけど、実際会う人でって事だ。お笑い芸人は2~3回あって食事とかした事あるけど、俺の方が面白かった。

 

この広いインターネットの世界でも面白い人は実際にいっぱいいた。何て井の中の蛙なんだろう。って…今でも思っていない。俺は実際会うと面白いと思っているからだ。どこからこの自信がでるかわからないが、今までの経験がそうさせるんだろう。生意気な面白い自負は恐らく何度も崩される。崩されまくる。だが、どこかで自分はまだ「面白い人」って思って生きているんだろうな。

いいか。俺が笑わせる側だ。面白い=楽しいだ。

これ以上、俺より面白い人がいると自分の自信がなくなりそうだ。会いたくない。人に会うのが怖い。だけど人に会って笑わせたい。俺より面白い人なんてもういなければいいのに。

 

フィクションです。

 

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